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第118回 ZEN爺の昔物語「涙の片道切符」

1956年 中学3年生の夏休み

夏休みに入ると、直ぐに母親から、

「 明日から下田へ行くんだから、支度しなさい!

  夏休みの宿題もチャンと持ちなさいよ。

  正(僕の弟)の分もチャンと面倒みるんだよ。

  下田までの切符を二人分買ってあるから。

  リュックのポケットに入れておきなさいよ。

  二人で500円あげるから大事に使うんだよ。

  明日の朝、母ちゃんが東京駅まで送っていくから。」



私は海で泳げることが楽しみだったので、半分は嬉しかった。

でも弟と二人だけで親戚の家に預けられるのが、凄くつらかった。

きっと、母親にとっては夏休みの一ヵ月半の二人の食費を少なくするためには

しょうがなかったんだと思う。



二人だけで行けるんだろうか?

お金が足りるんだろうか?

誰か下田の駅まで迎えに来てくれるんだろうか?

帰りはどうするんだろうか?

       ・

       ・

       ・

色んな不安がイッパイでとても寝付かれなかった。

翌日、母親に連れられて東京駅まで行く電車の中で

私は、不安が爆発して泣きべそをかいてしまった。

「 大丈夫よ! お金ができたらチャンと迎えに行くからね!

  心配しないでよ! それより、正の面倒をみるのよ!

  叔母さんの言うこともチャンと聞くんだよ! 」

弟は、電車に乗れてよっぽど嬉しかったらしく、隣でおおはしゃぎだ。



電車で伊東まで行って、バスに乗り換えた。

でも、下田に着いたらおばさんが迎えに来てくれてるかどうか?

そればっかりが心配だった。

下田に着くまでの間、バスガイドさんがず〜とガイドしてくれたり

歌を唄ったりして、みんなを楽しませてくれたので、

私も 窓越しに青い海を見ながら、眠りについてしまった

途中 稲取でトイレ休憩があって、5時間くらいで下田に到着・・・

私の頭は、おばさんの顔でいっぱいになっていた。

「 良かった! いた いた 叔母さんがいた ! 」

この叔母さんは父の妹で、母の女学校時代の同級生であった。



下田からバスに乗って叔母さんの家まで着いたときには、もう夕方だった。



朝起きると、もうすっかり海大好き少年に変身!

来る日も来る日も、弓ヶ浜の海に歩いて通った。

片道子供の足で40分くらい掛かったと思う。

でも、私の心の拠りどころだった。

寂しさを紛らわすために、海の波間に飛び込んだんです。

弟と従兄と3人で、真っ黒になって泳ぎ、はしゃぎまくった。

一本5円のアイスキャンディーをしゃぶりながら帰ると、

すっかり疲れ果てて、たっぷり昼寝・・・

毎日毎日、ものすごく楽しかったけど、

心の底にいつも

 「 帰りはどうするんだろう? 切符買うお金がない 

   どうするんだろう? 」

という不安があった。 

 「 叔母さんになんと言えばいいんだろう? 」

8月の終わりが近づいてくると、だんだん不安が大きくなった。



ヤッパリ、帰りの切符は叔母さんに頼んであったらしい。

25日過ぎに叔父さんのお給料の中から、工面して、

叔母さんが切符を買ってきてくれた。



嬉しかったなあ。すごっく嬉しかった。これでようやく家に帰れる・・・

もう帰りのバスの中では、僕もおおはしゃぎ。

バスガイドさんの話がとても楽しく聞こえた。

これでようやく家に帰れるんだ!!!!!



  母としては涙の片道切符だったんだろう・・・